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 >>『宴の始末』p280- / p380-

 キクちゃんの癖。
 この、人格を表す大事なファクターを、私はかなり勝手に想像して確定してきていた、とゆーことに気がついたのはあまり最近ではなかったのですけれど。

 でもそれでも、ちゃんとテキストと照合してみたら改めて真偽のほどが明らかになり、ちょっと呆然としてみたりするのでした。ナニ?何でこんなにかっこわるいの、テキストのキクちゃんって。

 例えばこんなものは、テキストでは全然触れられていない。

 ・くすくす笑い

 ・くわえ煙草

 ・「キクちゃん」

 先ず八重の頭の中では、つー!かー!のテンポで「キクヲ!」と言えば「くすくすッ」が出てくるというのに、テキストで明記されている彼の笑い声といえば

 『へへへ

 この一点張りなのだ。
 へへへ。
 まあ、これはまだ許容範囲なのでかまわない。

 へへへと笑うこともあるだろう。
 八重も初期の頃は「くすくす」と「へへへ」を五分五分の割合で認知していたのだから。

 けれど次。次の、くわえ煙草に関しては完璧に、してやられた。
 絶対にテキストにも書いてあったさ。と思っていたのに、信じていたのに、

 書いてないじゃないか。

 どこにもないのだ。

 煙草の「た」の字も出てこなかった。

 別に吸いたいわけじゃなく、ただ口が寂しいからくわえているだけ。
 てな感じで、さりげなく重要な小道具の一つだったのに、これも空振り。

 そして最後の頼みの綱だった、「キクちゃん」は

 『呼ぶなら喜久さんでいいのさ

 で、かすめただけ。

 いや、違うんだ。もっと根本的なところでは完璧にはずしている。
 この「キクちゃん」は自己申告ではなく、榎さんの口から発せられていたはずだった。少なくともそう信じていた。

 またあてがはずれたようだ。

 一体どこでこんな情報をすりこまれて来たのであろー、自分…。
 最早頭の中でテキストに添ったキクヲ事は、その話し口調だけになってしまった。
 そうだ、もとはと言えばこの口調に惚れたのだ。

 『〜なのさ

 『〜でしょ?

 と、ゆーこの…敬語も謙譲語もあったもんじゃない、大胆不敵というかマイペースというか、「あんたこっちの話聞く気あんの?ないでしょ。ないわよね。」と、思わず青筋立ててしまいそうになる、この、口調。

 一人称が『僕』なのも、いかにも胡散臭くて良い。
 だいたいあんな、どっから見ても堅気じゃない男が『僕』だなんて、ははは。
 ばしゅがフリルの服を着てるよーなもんなのさ、ははは。
 ちょっとぞっとする。要するに、そーゆー感じ。

 結論として私の頭の中のキクちゃんていうのは、テキストに描かれているキクちゃんじゃあないのだ。

 ただそれを確認しただけだったらしい。何と無益な行動…。

 『まあ僕も妙な胸騒ぎがしたから少し調べたのさ

 うん。でも調べてもやっぱりダメなこともあるのよね。あったのさ。
 もういいや…いいのさいいのさ…。
 っていうか、もとから期待なんてしていたのか自分。
 見捨てたも同然のテキスト喜久男じゃないか。

 『じゃあ何?その、ナニがナニとか

 ぐぅ…。まあ、そーゆーところかもしれない。


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後記:当時、私と一緒に目を皿のよーにして原作の「キクちゃん」発言を探してくださったカオリン様に深謝の意を表します。あれ、一人でやってたらさぞ虚しかっただろう…結局見つからなかったし…。(沈)